遺産分割協議書の書き方|相続登記に使える形にするために
戸籍を集め終えて相続人が確定したら、次は誰が何を引き継ぐかを決める段になります。そこで作るのが遺産分割協議書です。
決まった様式はありません。 手書きでも構いませんし、用紙の大きさも自由です。
ただし、相続登記に使うとなると話が変わります。不動産の書き方や押印のしかたを外すと、法務局で受け付けてもらえません。 ここでは、何を書くのか、どこでつまずきやすいのかを順に見ていきます。
相続登記そのものの流れは相続登記とはをご覧ください。
何のための書面か
民法は、遺産の分け方を相続人の話し合いに委ねています。
民法 第907条第1項(遺産の分割の協議)
共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
「いつでも」 と書かれています。相続から何年経っていても協議はできます。
そして、その協議の内容を書き残したものが遺産分割協議書です。協議書があるから分割が成立するのではなく、成立した協議を証明するための書面という位置づけになります。
分け方の基準も条文にあります。
民法 第906条(遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
法定相続分どおりに分けなさい、とは書かれていません。 相続人全員が納得すれば、一人がすべてを取得する内容でも成立します。「実家は同居していた長男が引き継ぎ、預貯金は他の兄弟で分ける」といった分け方も、条文のいう「生活の状況その他一切の事情」を考慮した分け方の一つです。
ただし、相続人全員の合意が要ります。 一人でも欠けた協議は無効です。だからその前に戸籍で相続人を確定させます(相続人が誰かで、集める戸籍はここまで変わる)。
登記の原因が「相続」になる理由
ここは知っておくと、書面の意味が分かりやすくなります。
遺産分割で不動産を取得した場合、登記の原因は「遺産分割」ではなく、「年月日相続」と書きます。日付も、協議がまとまった日ではなく被相続人が亡くなった日です。
根拠は次の条文です。
民法 第909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
さかのぼるとされています。協議で取得した人は、亡くなった時点から所有者だったことになる。だから登記も、亡くなった日を原因日付とする相続の登記になります。
もっとも、ただし書が 「第三者の権利を害することはできない」 としている点には注意が要ります。さかのぼるとはいっても、登記をしないでいるあいだに他の相続人の債権者が動けば、そちらに主張が通らないことがあります(民法899条の2)。協議がまとまったら、登記まで済ませておくのが安全という理由がここにあります。
何を書くか
骨格は3つです。
① 誰の相続か
被相続人を特定します。氏名、死亡年月日、最後の本籍、最後の住所。戸籍と住民票の除票に書かれているとおりに写してください。
② 誰が何を取得するか
相続人の氏名と、取得する財産を対応させます。
③ 相続人全員の署名と押印
署名は自署が確実です。押印は実印で、印鑑登録証明書を添えます。
不動産の書き方でつまずきます
住所で書いてはいけません。登記事項証明書に書かれているとおりに写します。
| 書く項目 | |
|---|---|
| 土地 | 所在/地番/地目/地積 |
| 建物 | 所在/家屋番号/種類/構造/床面積 |
マンションは、登記の上では一室ごとの「区分建物」です。登記事項証明書の表題部が次の四段に分かれているので、四段すべてを写します。
| 書く項目 | |
|---|---|
| 一棟の建物の表示 | 所在/建物の名称/構造/床面積 |
| 敷地権の目的である土地の表示 | 符号(敷地の通し番号)/所在及び地番/地目/地積 |
| 専有部分の建物の表示 | 家屋番号/建物の名称/種類/構造/床面積 |
| 敷地権の表示 | 符号/敷地権の種類/敷地権の割合 |
登記事項証明書に敷地権の表示がないマンションもあります。その場合は土地が建物と別の登記になっているので、その土地の共有持分も「土地」の項目で書きます。
ふだん使っている住所(住居表示)と、登記の表記は別のものです。 「中川区戸田○丁目○番○号」は住所、登記では「中川区戸田○丁目」という所在と「○番」という地番の組み合わせで土地を特定します。住所のまま書くと、どの不動産を指すのか特定できません(この違いの成り立ちは不動産の「所在」と住所はなぜ違うのかに書きました)。
登記事項証明書を横に置いて、そのまま写す。 これが確実です。
漏れやすいもの
- 私道の持分 … 固定資産税がかからず、納税通知書に載らないことがあります
- 集会所や水路の共有持分
- 未登記の建物 … 物置や増築部分など
名寄帳を取って、納税通知書と突き合わせてください。 漏れたまま協議書を作ると、その分だけもう一度、全員で協議書を作り直すことになります。
そこで、末尾に後から財産が見つかったときの取り決めを入れておく方法があります。「本協議書に記載のない財産が判明したときは、○○が取得する」といった一文です。やり直しの手間を減らせます。
押印と印鑑証明書
実印での押印と、印鑑登録証明書の添付が求められます。相続人全員分です。
印鑑証明書について、ひとつ押さえておくとよい点があります。
不動産登記令 第16条第2項・第3項(抜粋)
2 前項の場合において、申請情報を記載した書面には、(中略)印鑑に関する証明書(中略)を添付しなければならない。
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
3か月以内という制限が書かれています。 ただしこれは、申請書に押印した人(売買であれば売主)の印鑑証明書についての規定です。
遺産分割協議書に添える相続人の印鑑証明書は、これとは別の扱いです。法務局への登記申請では作成後3か月以内という制限はかかりません。以前に取ったものが手元にあれば、そのまま使えます。
全員が一堂に会する必要はありません
同じ用紙に全員が署名しなければならない、というものではありません。
遠方にお住まいの相続人がいる場合、次のような方法があります。
持ち回り … 1通の協議書を郵送で回し、順に署名押印していきます。時間はかかりますが、書面は1通で済みます。
相続人ごとに1通ずつ … 同じ内容の書面を人数分用意し、それぞれが1通に署名押印して、全部をまとめて提出します。同時に進められるので早く済みます。
海外にお住まいの方がいる場合は、印鑑登録がありませんので、在外公館で署名証明を受けるといった手当てが要ります。
協議書が作れない場合
次のような場合、そのままでは協議ができません。
相続人に判断が難しい状態の方がいる … 成年後見人等の選任が要ります。後見人等が本人に代わって協議に加わります。
相続人に未成年の方がいる … 親権者も相続人であれば、利益が対立します。家庭裁判所に特別代理人を選んでもらいます。
連絡が取れない相続人がいる … 不在者財産管理人の選任や、失踪宣告といった手続きを検討します。
話し合いがまとまらない … 民法907条2項が、家庭裁判所への請求を認めています。調停・審判へ進むことになります。
いずれも家庭裁判所の手続きが挟まりますので、登記までの期間が数か月単位で延びます。 相続登記には3年の期限がありますので、当てはまりそうな場合は早めに動いてください。
作る前に、決めておきたいこと
協議書は、書き方より先に中身を決めるほうが順序として楽です。
- 不動産をいくつ持っていたか(名寄帳と納税通知書で突き合わせる)
- 相続人が誰か(戸籍で確定させる)
- 誰が何を取得するか(ここが話し合い)
3つ目が決まっていれば、書面に落とす作業自体は難しくありません。法務局が申請書の様式と記載例を公開していますので、あわせて参考にしてください。
分け方によっては、登記の組み立てや税の扱いが変わることがあります。迷われた段階でご相談いただければ、選択肢を整理してお伝えします。
相続登記について詳しく/費用は料金のご案内をご覧ください。対応地域ごとに、申請先となる法務局もご案内しています。
根拠・参考
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月29日)。