相続登記の申請書の書き方|決まった用紙がない書面を、間違えずに作る
相続登記の申請書を書こうとして、まず「公式の用紙」を探す方が多いのですが、そういうものはありません。市役所の届出のような、あらかじめ枠が印刷された紙は存在しないのです。
不安になるところですが、理由が分かれば心細さは減ります。法律が決めているのは「何を書くか」であって、「どんな紙に書くか」ではないからです。決められた事項が書いてあれば、ご自分がその辺の紙にワープロで打った書面が、そのまま正式な申請書になります。
書類集めがまだの方は、先に相続登記の必要書類をご覧ください。
申請書とは「申請情報」を紙にしたもの
不動産登記法18条は、登記の申請を、オンラインで行うか、申請情報を記載した書面を提出して行うと定めています。申請書の中身は、政令が列挙しています。
不動産登記令 第3条(申請情報・柱書)
登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。
この「次に掲げる事項」に、申請人の氏名・住所、登記の目的、登記原因とその日付、不動産の表示などが並びます。つまり申請書は、条文が求める情報を一枚に並べた書面にすぎません。だから様式が自由なのです。
とはいえ、ゼロから組み立てる必要はありません。法務局が場合分けごとの様式と記載例を公開していますので、当てはまる記載例を選んで、自分の事案に置き換えながら写していくのが確実です。用紙はA4を縦に使い、横書きで作ります。
まず、全体の形を見てください
欄ごとの説明に入る前に、出来上がりを載せます。お父さまが亡くなり、遺産分割協議によって、お母さまが土地と建物を取得した場合の例です。氏名や地番は架空のものに置き換えてあります。
記載例(遺産分割協議によって、お一人が土地と建物を取得した場合)
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原 因 令和7年3月15日相続
相 続 人 (被相続人 甲野太郎)
名古屋市中川区〇〇一丁目2番3号
甲 野 花 子 印
氏名ふりがな こうの はなこ
生年月日 昭和30年4月1日
メールアドレス 〇〇〇〇@〇〇〇〇
連絡先の電話番号 〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報
□登記識別情報の通知を希望しません。
令和8年7月30日申請 名古屋法務局熱田出張所
課税価格 金15,802,000円
登録免許税 金63,200円
不動産の表示
不動産番号 1234567890123
所 在 名古屋市中川区〇〇一丁目
地 番 2番3
地 目 宅地
地 積 120・50平方メートル
不動産番号 9876543210987
所 在 名古屋市中川区〇〇一丁目2番地3
家屋番号 2番3
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 60・00平方メートル
2階 45・00平方メートル
これだけです。1枚に収まります。
課税価格と登録免許税の数字は、相続登記の登録免許税で計算した例(土地12,345,678円・建物3,456,789円)と同じものを入れてあります。計算の手順はそちらをご覧ください。
ここからは、この各欄を上から順に見ていきます。迷いやすいのは、目的・原因・不動産の表示の3つです。
各欄の書き方
登記の目的
亡くなった方がその不動産を単独で持っていた場合は、「所有権移転」と書きます。
亡くなった方が持分しか持っていなかった場合は「宮城太郎持分全部移転」のように、名義人の氏名を入れた書き方になります。どちらにあたるかは、登記事項証明書の権利部(甲区)を見れば分かります。書き始める前に、現在の登記事項証明書を取ってください。 古い権利証の記憶で書くと、ここでずれます。
登記の原因
「令和◯年◯月◯日相続」と書きます。日付は亡くなった日です。
遺産分割協議で取得した場合でも、協議がまとまった日ではありません。分割の効力は亡くなった時にさかのぼるためです(理由は遺産分割協議書の書き方に書きました)。遺言で相続人が取得した場合も、原因は同じ「相続」です。
相続人
まず「(被相続人 宮城太郎)」と亡くなった方の氏名を書き、続けて不動産を取得する方の住所・氏名を書きます。住民票の記載のとおりに写してください。登記簿にはここで書いたとおりに記録されます。
複数人で取得するときは、それぞれの持分(「持分2分の1」など)も書きます。
あわせて、平日の日中につながる電話番号を書きます。書類に不備があったとき、法務局はこの番号に連絡してきます。携帯電話でも構いません。氏名の横には押印をしますが、実印である必要はなく、認印で足ります。
住民票コードをお持ちであれば、住所の下に書いておくと住所証明情報(住民票の写し)の添付を省略できます。
ふりがな・生年月日・メールアドレス
記載例で見慣れない欄かもしれません。申請する方については、氏名のふりがな、生年月日、メールアドレスも書くことになっています。
これには理由があります。2026年4月から、氏名や住所を変えたときの変更登記が義務になりました。そこで登記所は、ここで集めた氏名・ふりがな・生年月日をもとに住民基本台帳のネットワークを定期的に検索し、引っ越しや改姓を把握したら、メールで連絡をして、本人の了解を得たうえで職権で変更登記をするという運用を始めています。
つまりこの3つは、この登記のためではなく、将来ご自身が住所変更登記をしなくて済むようにするための欄です。メールアドレスは、ご本人だけが使っているものを書いてください。
海外にお住まいの方が取得する場合
不動産を取得する方が日本国内に住所を持たない場合は、国内の連絡先を書くことになります。
不動産登記法 第73条の2第1項第2号(所有権の登記の登記事項)
所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの
登記事項として定められているところが重要です。申請書に書けば足りるという話ではなく、登記簿に記録されます。 国内に連絡の付く先がないまま名義人になると、後々その不動産について連絡の取りようがなくなるためで、所有者不明土地を増やさないための仕組みの一つです(所有者不明土地とは)。
そして、その方の承諾書を添付します。 口頭で承諾を得ておけば足りるというものではありません。
不動産登記規則 第156条の6第1項(国内連絡先事項を申請情報の内容とする登記の添付情報・抜粋)
(中略)次に掲げる情報をその申請情報と併せて提供しなければならない。
一 国内連絡先となる者があるときは、次に掲げる情報
イ (中略)氏名又は名称並びに国内の住所(中略)を証する情報
ロ 国内連絡先となる者の承諾を証する当該国内連絡先となる者が作成した情報
「当該国内連絡先となる者が作成した情報」 とありますので、連絡先を引き受ける方ご自身に書いていただくことになります。取得する方が用意できるものではありません。
なお、引き受けてくれる方がいない場合は、「連絡先となる者がない」旨を登記することもできます(規則156条の5第2号)。連絡先が見つからないから登記できない、ということにはなりません。
ご相続では、お子さまが海外に転勤・移住されている場合に当たることがあります。誰に引き受けてもらうかを先に決めておくと、書類集めの手戻りがありません。
添付情報
「登記原因証明情報 住所証明情報」と書きます。中身は戸籍一式・遺産分割協議書・住民票などで、詳しくは必要書類の記事のとおりです。
なお、権利証(登記識別情報)は要りません。不動産登記法22条が提供を求めているのは「登記義務者」、つまり登記によって権利を失う側の本人確認のためのものです。相続の登記は取得する側の単独申請で、登記義務者がいないため、この仕組みの対象外になります。権利証が見つからなくても相続登記はできる、ということでもあります。
記載例には「□登記識別情報の通知を希望しません」というチェック欄が付いています。登記が終わったときに通知される登記識別情報を、あえて受け取らないことを選ぶための欄です。この情報は、将来その不動産を売ったり担保に入れたりするときに使いますので、特別な事情がなければチェックせずに、受け取ってください。 取得する方が複数いる場合は、その方ごとに希望しないと申し出ることもできます。
課税価格・登録免許税
固定資産評価証明書の価額を合計して課税価格を出し、税率を掛けて税額を書きます。端数の切り捨てが2回入るところで間違えやすいので、計算の手順は相続登記の登録免許税をご覧ください。免税措置に当てはまる場合に申請書へ書き添える文言も、そちらに書いています。
不動産の表示
登記事項証明書の表題部を、そのまま写します。土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積です。
ふだんの住所(住居表示)で書いてはいけません。住所と登記上の表記は別のものです(不動産の「所在」と住所はなぜ違うのか)。
登記事項証明書に載っている不動産番号を書けば、これらの表示の一部を省略できることになっています(不動産登記令6条)。ただ、写し間違いを防ぐ意味では、番号と表示の両方を書き写しておくのが確実だと考えています。
申請先と申請日
申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。住んでいる場所ではありません。当事務所の対応地域のページに、地域ごとの管轄を載せています。管轄の違う不動産があれば、申請書もその数だけ作ります。
綴じ方と収入印紙
書き上がったら、次の順で綴じます。
- 申請書
- 収入印紙を貼る台紙(白紙で構いません)
- 原本還付を受ける書類のコピーの束(「原本と相違ありません」と記載して記名)
申請書が複数枚になる場合や台紙を挟む場合は、各用紙のつづり目に契印をします。法務局の記載例も「つづり目に必ず契印をしてください」としています。申請する方が2人以上いるときは、そのうちの1人が契印すれば足ります。
登録免許税分の収入印紙は台紙に貼りますが、印紙に割印や消印をしてはいけません。記載例にもそのように注意書きがあります。使用済みにするのは登記官の仕事で、こちらで消してしまうと納付になりません。
戸籍や協議書などの原本は、綴じずにひとまとめにして、コピーの束と一緒に提出します。
出し方は3つあります
窓口 … 管轄法務局に持参します。その場で形式的な不足を指摘してもらえることがあります。
郵送 … 封筒に「不動産登記申請書在中」と書いて送ります。遠方の不動産や、平日に動きにくい場合の選択肢になります。
オンライン … 司法書士は通常こちらを使いますが、電子証明書などの事前準備が要るため、一度きりの申請のためにそろえるのは割に合わないと考えています。ご自分で申請される方は、窓口か郵送が現実的です。
出した後のこと
申請すると、法務局ごとに公表されている登記完了予定日を目安に審査が進みます。
不備があると、申請書に書いた番号へ電話で補正の連絡が来ます。誤字や添付漏れ程度なら、指示された期限までに直せば申請は生きています。連絡が来ても慌てず、何をどう直すのかを確認してください。
完了すると、登記識別情報通知書と登記完了証が交付されます。原本還付を求めた戸籍なども、このときに返してもらいます。受け取りは管轄法務局の窓口です。本人確認の書類と印鑑を持って行ってください。
書類を受け取ったら、登記事項証明書を取って、意図したとおりに記録されたかを確かめます。氏名や住所の誤り、持分の割合の誤りは、この段階で見つけておくほうが直しやすくなります。登記識別情報通知書は再発行されませんので、封をされたまま保管してください。このあたりは相続登記とはの後半に書きました。
書き始める前に、手元に置くもの
- 登記事項証明書(いまの名義と、不動産の表示を写すため)
- 固定資産評価証明書(課税価格と税額を計算するため)
- 法務局の記載例(自分の場合に合うものを選ぶ)
この3つがそろっていれば、申請書づくりは「写して置き換える」作業です。逆に、記載例のどれに当てはまるのか分からない場合──相続が重なっている、遺言と協議が混ざる、といった場合は、書き方の問題ではなく登記の組み立ての問題になっていることが多いので、その段階でご相談いただくほうが早く進みます。
相続登記について詳しく/費用は料金のご案内をご覧ください。
根拠・参考
- 不動産登記令(e-Gov法令検索)
- 不動産登記法(e-Gov法令検索)
- 不動産登記規則(e-Gov法令検索)
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」
- 法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)記載例」
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月30日)。