所有者不明土地とは|なぜ生まれるのか、登記の義務化で何が変わったのか
「所有者不明土地」という言葉を、ニュースで耳にされたことがあるかもしれません。国土の2割が所有者不明、九州の面積より広い——そうした見出しとともに語られます。
ただ、この言葉は誤解されやすいものでもあります。持ち主が誰も分からない、放置された荒れ地。そんな印象を持たれがちですが、実態は少し違います。
そして、ご自宅の名義や住所の登記が、この問題と地続きでもあります。順に見ていきます。
所有者不明土地とは何か
国土交通省は、次のように説明しています。
- 不動産登記簿等を参照しても、所有者が直ちに判明しない土地
- 所有者は判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地
つまり、土地そのものの問題ではなく、「たどり着けない」という問題です。現地に行けば、誰かが住んでいるかもしれません。畑として使われているかもしれません。それでも、登記簿という公の記録から所有者に連絡できないのであれば、所有者不明土地に数えられます。
「2割」という数字の読み方
よく引かれる数字には、二段階あります。
| 割合 | |
|---|---|
| 登記簿だけでは所有者の所在が確認できない土地(外縁) | 25.6% |
| 探索の結果、最終的に所有者の所在が分からなかった土地(最狭義) | 0.26% |
「探せばほとんど分かるのだから、大した問題ではないのでは」と思われるかもしれません。
問題は、その「探す」ことにかかる費用と時間です。 戸籍や住民票をたどって相続人を洗い出す作業を、土地を使いたい側が負担することになります。
道路を通したい自治体。隣の空き家に困っている住民。震災の復興事業。土地の話を始める前に、人を探す作業が待っています。 ここが実害の中身です。
(いずれも令和5年度、国土交通省の資料によります。調査年によって数値は動きます)
なぜ生まれるのか
原因ははっきりしています。登記が更新されないことです。
国土交通省は、所有者不明土地が生じる理由として、相続の際に所有者についての登記が行われないことと、所有者が住所等の変更登記をしなかったことを挙げています。
土地が荒れ果てているから所有者不明になるのではなく、手続きがされないから所有者不明になるわけです。
なぜ、登記されなかったのか
長いあいだ、登記は義務ではなかったからです。
不動産の登記は、本来「自分の権利を他人に主張するため」の制度です。売買であれば、登記しなければ二重譲渡に負けるおそれがあるので、誰でも急いで登記します。
ところが相続では、事情が違います。登記しなくても、当面は誰も困りません。 固定資産税の通知は届きますし、住み続けることもできます。売る予定がなければ、そのままでも支障がない。
困らないから、しない。 そして、しないまま次の相続が起きる。これが積み重なった結果が、いまの状態です。
放置された期間が長いほど、探しにくくなる
「積み重なる」というのは、こういうことです。
登記されないまま次の相続が起きると、権利を持つ人は増えていきます。3人だったのが、次の代で10人、その次で20人。
人数が増えるほど、そのうちの誰か一人が所在不明になる確率は上がります。 海外へ移住している。連絡先が分からない。そもそも存在を誰も知らない。たどるべき戸籍の数も、人数に比例して膨らみます。
登記されない期間が長いほど、後から探す作業は加速度的に重くなるわけです。だからこそ、発生を止めることが対策の柱になりました。
なお、共有者が多くて話がまとまらない、というのはこれとは別の問題です。そちらは共有者が誰かは分かっており、手間はかかっても手続きを進められます。
制度はどう変わったか
東日本大震災の復興事業で用地取得が進まなかったことが、大きな契機になりました。そこから制度の見直しが続いています。
| 年 | 内容 |
|---|---|
| 2018年 | 所有者不明土地法の制定(利用の円滑化) |
| 2020年 | 土地基本法の改正。土地所有者の責務として権利関係の明確化を明記 |
| 2021年 | 民法・不動産登記法の改正、相続土地国庫帰属法の制定 |
2021年の改正は、所有者不明の土地をこれ以上増やさないことと、すでに所有者不明になっている土地を使えるようにすることの、両面から組まれています。
これ以上増やさないための備え(不動産登記法)
- 相続登記・住所変更登記の申請義務化
- 相続人申告登記の新設(すぐに登記できないときの簡易な手続き)
- 職権で住所変更等を登記に反映させる仕組み
- 所有不動産記録証明制度の新設(登記漏れを防ぐため、その人名義の不動産を一覧で確認できる)
すでに所有者不明になっている土地への対応(民法)
- 所有者不明の土地・建物に特化した管理制度
- 管理が行き届かない土地・建物の管理制度
- 所在の分からない共有者がいる場合に、金銭を供託して共有関係を解消する方策
- 相続開始から10年を過ぎた遺産分割は、原則として法定相続分で分ける
このほか、いらない土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度も始まりました。
ご自身に関係すること
制度の話として遠くに聞こえるかもしれませんが、義務はすでに動いています。
相続登記の申請義務(2024年4月1日から)
不動産登記法 第76条の2第1項(相続等による所有権の移転の登記の申請)
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です。2024年より前に発生した相続も対象で、その場合の期限は原則として2027年3月31日です。詳しくは相続登記の義務化とはをご覧ください。
住所・氏名変更の登記の申請義務(2026年4月1日から)
こちらは見落とされがちです。
不動産登記法 第76条の5
所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
正当な理由なく怠ると、5万円以下の過料の対象になります。
すでに引っ越しを済ませている方も対象です。 施行日より前に住所が変わっていた場合は、2028年3月31日までに変更の登記をする必要があります。
不動産をお持ちで、その後に引っ越しや結婚で氏名・住所が変わっている。心当たりのある方は、登記簿を確認してみてください。
まとめ
- 所有者不明土地とは、登記簿から所有者にたどり着けない土地のこと
- 原因の9割超は、相続登記と住所変更登記がされていないこと
- 登記されなかったのは、義務でなく、しなくても当面困らなかったから
- 共有者が増えること自体は所有者不明土地ではないが、問題を悪化させる条件になる
- 相続登記は2024年4月から、住所変更登記は2026年4月から義務
ご自身の登記を確かめてください
「実家の名義が親のままかもしれない」「引っ越したが登記を直していない」。登記簿を取れば、その場ではっきりします。
固定資産税の納税通知書があれば、そこから調べられます。何もお持ちでない状態でのご相談でも構いません。
相続登記について詳しく/費用は料金のご案内をご覧ください。
根拠・参考
- 不動産登記法(e-Gov法令検索)
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」
- 国土交通省「人口減少時代における土地政策の推進〜所有者不明土地等対策〜」
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月27日)。