相続人が誰かで、集める戸籍はここまで変わる|子・親・兄弟姉妹・代襲相続・数次相続
「戸籍は何通くらい必要ですか」とよく聞かれますが、一概には言えません。
配偶者とお子さまだけなら3通ほどで済むこともあります。ご兄弟が相続人になると、その3倍を超えることも珍しくありません。
この差はどこから来るのか。そして、ご自分の場合はどこまで集めればよいのか。相続人の類型ごとに整理します。
原則 ── 「いること」と「いないこと」の両方を示す
戸籍を集める目的は、相続人を確定することです。そのためには2つを示す必要があります。
① その人が相続人であること ② それ以外に相続人がいないこと
厄介なのは②です。「いない」ことを証明するには、可能性をすべて潰すしかありません。
お子さまがいないことを示すには、生まれてから亡くなるまでの戸籍を全部たどるしかない。婚姻して除籍になったお子さまや、前の婚姻、認知したお子さま、養子縁組が途中に出てくるかもしれないからです。
必要な戸籍の量は、この「いないことの証明」がどこまで必要かで決まります。 順位が下がるほど、潰すべき可能性が増えていきます。
どの場合でも共通して必要なもの
- 被相続人の出生から死亡までの、連続したすべての戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本(いま生存していることを示すため)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票(登記簿上の名義人と同一人であることを示すため)
相続登記ではこのほか、不動産を取得する方の住民票、固定資産評価証明書、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
① 相続人が子(第1順位)
もっとも軽い類型です。
必要なもの
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- お子さま全員の現在の戸籍謄本
- 配偶者がいれば、その方の現在の戸籍謄本(被相続人の死亡の記載のある戸籍であることがほとんどです)
なぜ出生まで遡るのか
よく誤解されるところです。「死亡の記載がある戸籍だけでよいのでは」と思われがちですが、それでは足りません。
典型的なのは、婚姻して除籍になったお子さまです。
お子さまは結婚すると、親の戸籍を抜けて、夫婦で新しい戸籍を作ります。抜けた時点では、元の戸籍に「除籍」として名前が残ります。ところがその後に親が転籍したり、戸籍が改製されたりすると、新しい戸籍には移りません。
省令が、筆頭者以外で除籍された人に関する事項は書き写さなくてよいとしているためです(戸籍法施行規則37条ただし書3号)。結婚したお子さまがいるのに、親の最後の戸籍を見ても分からないという状態が、こうして生まれます。
同じ理由で、前の婚姻で生まれたお子さま、認知したお子さま、養子縁組も、現在の戸籍からは見えないことがあります。
つまり現在の戸籍は、その方の「いま」を写したものであって、「これまで」ではありません。 だから出生まで遡ります(詳しくは戸籍はなぜ何度も作り替えられたのかをご覧ください)。
ご依頼をお受けしてきた実感では、3〜5通に収まることが多い類型です。転籍が少なければ、もっと少なく済みます。
広域交付が使えます。 お子さまから見て被相続人は直系尊属ですので、お近くの窓口でまとめて請求できます。
② 相続人が親・祖父母(第2順位)
第2順位が相続人になるのは、お子さまもお孫さんも一人もいない場合です。
必要なもの
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- お子さまがいた場合は、そのお子さまの出生から死亡までのすべての戸籍
- ご両親の現在の戸籍謄本
- ご両親が亡くなっている場合は、その死亡が分かる戸籍(祖父母が相続人になります)
注意すべき点
お子さまが先に亡くなっている場合、そのお子さまの戸籍も出生から死亡まで必要になります。そのお子さまにお子さま(被相続人から見て孫)がいれば、代襲相続で孫が第1順位の相続人になるからです。孫がいないことを示さなければ、第2順位には下りてきません。
ご依頼をお受けしてきた実感では、5〜8通になることが多い類型です。
なお直系尊属は親等の近い方が優先します。ご両親のどちらか一方でもご存命なら、祖父母は相続人になりません。
広域交付が使えます。 ご両親から見て被相続人は直系卑属ですので、請求できます。
③ 相続人が兄弟姉妹・甥姪(第3順位)
もっとも重い類型です。 ここで多くの方が行き詰まります。
必要なもの
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- お子さまがいた場合は、そのお子さまの出生から死亡までのすべての戸籍
- ご両親それぞれの、出生から死亡までのすべての戸籍
- 祖父母の死亡が分かる戸籍
- ご兄弟全員の現在の戸籍謄本
- 甥姪が代襲する場合は、その親(被相続人の兄弟姉妹)の出生から死亡までのすべての戸籍
なぜ、両親の戸籍まで必要なのか
ご兄弟が何人いるのかは、ご両親の戸籍をたどらなければ分からないからです。
お父さまに前の婚姻があり、そこにお子さまがいた。お母さまが再婚で、前の配偶者との間にお子さまがいた。こうした場合、その方々も被相続人の兄弟姉妹として相続人になります。
父母の一方だけを同じくするご兄弟(半血の兄弟姉妹)も、相続人であることに変わりはありません。 相続分が、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の半分になるだけです。
ご本人が把握していないご兄弟が、戸籍から現れることは実際にあります。
祖父母の死亡まで求められることがあります
第3順位が相続人になるには、直系尊属が全員亡くなっている必要があります。ご両親だけでなく、祖父母の死亡まで戸籍で示すよう求められることがあります。
祖父母の代の戸籍は保存期間が経過して廃棄されていることもあります。その場合は、廃棄により交付できない旨の証明を出してもらい、それで代えることになります。
戸籍を「そこまでは要らない」とされる場面があります
出生から死亡まで、直系尊属は全員分。原則はそのとおりですが、取っても意味がない範囲は求められないことがあります。 理由が対照的で、面白いところです。
① 高齢すぎる直系尊属 ── 生きているとは考えられないから
祖父母や曽祖父母の死亡を戸籍で示そうとしても、その戸籍が残っていないことがあります。しかし、生年から数えて存命がおよそ考えられない年齢であれば、死亡を示す戸籍まで求められないことがあります。
どのくらいの年齢かというと、厚生労働省の公表によれば、国内最高齢の方は114歳です(令和7年5月時点)。100歳以上の方は約10万人いらっしゃいますが(同年9月時点で99,763人)、110歳を超えて存命という方は、日本全体でごくわずかです。
明治の初めに生まれた方が、いま生きている可能性はない。 その常識を、いちいち戸籍で証明させるのは無理がある、という考え方です。
② 幼いころの被相続人 ── 子がいるはずがないから
もう一方は逆向きです。被相続人の戸籍を出生からたどるのは、お子さまがいないことを示すためでした。
だとすれば、お子さまが生まれようのない年齢の期間まで、戸籍を求める意味はありません。 出生から一定の年齢までの分は不要とされることがあります。
「出生から」と言われるので全部そろえなければと思われがちですが、目的から考えると、そうとは限らないわけです。
いずれも、法律や政令にはっきり書かれたものではなく、そうした取扱いがあると言われているというものです。どこまで求められるかは提出先によって変わりますので、当てにして省くのではなく、集める前に確かめてください。当事務所にご依頼いただく場合は、こちらで見極めます。
広域交付が、部分的にしか使えません
ここが実務上いちばん厄介な点です。
広域交付で請求できるのは、ご本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍に限られます。ご兄弟は直系ではありませんので、被相続人ご本人の戸籍は請求できません。
一方で、ご両親の戸籍は直系尊属ですので請求できます。 つまり、
- ご両親の戸籍 … 広域交付が使える
- 被相続人(ご自身の兄弟姉妹)の戸籍 … 使えない。本籍地へ請求する
という、ややこしい使い分けになります。もっとも戸籍が必要な立場でありながら、肝心の部分で広域交付が使えないわけです。
ご依頼をお受けしてきた実感では、10〜15通になることが多く、収集期間は2か月以上を見込んでおいてください。
④ 代襲相続の場合
相続人になるはずだった方が、被相続人より先に亡くなっている場合、その方のお子さまが代わりに相続します。
代襲が起きるのは、死亡・相続欠格・廃除の場合です。相続放棄は代襲の原因になりません。
必要なもの(お子さまが先に亡くなり、お孫さんが代襲する場合)
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- 先に亡くなったお子さまの、出生から死亡までのすべての戸籍
- お孫さん全員の現在の戸籍謄本
被代襲者の戸籍も出生から必要なのがポイントです。そのお子さま(=代襲相続人)が他にいないことを確認しなければならないからです。
代襲の範囲が違います
- お子さまの代襲 … 孫、ひ孫と下へ続きます(再代襲あり)
- ご兄弟の代襲 … 甥姪までの一代限り。甥姪のお子さまには及びません
⑤ 数次相続の場合
相続が起きた後、手続きをしないうちに相続人の一人が亡くなった場合です。
代襲相続との違いが決定的です
この2つは、死亡の順序が違うだけです。しかし結論がまったく変わります。
| 代襲相続 | 数次相続 | |
|---|---|---|
| 順序 | 相続人が先に死亡 | 相続人が後に死亡 |
| 誰が相続するか | 亡くなった方の子 | 亡くなった方の相続人 |
| その配偶者は | 相続しない | 相続する |
たとえば、お父さまが亡くなり、相続人が長男・次男だったとします。
長男がお父さまより先に亡くなっていた場合(代襲相続) 長男のお子さまが代襲します。長男の妻は相続人になりません。
長男がお父さまより後に亡くなった場合(数次相続) 長男はいったん相続人になっており、その長男の相続が改めて起きます。長男の妻とお子さまが相続人になります。
死亡日が1日違うだけで、遺産分割協議に加わる人が変わります。 必ず死亡日の前後を確認してください。
必要なもの
- 一次相続の被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- 途中で亡くなった相続人の、出生から死亡までのすべての戸籍
- その方の相続人全員の現在の戸籍謄本
相続が三次、四次と重なっていれば、そのたびに同じ一式が増えます。 名義を放置した不動産で相続人が数十人になるのは、これが積み重なるためです。
登記についてひとつ
数次相続では、中間の相続が単独相続であれば、最終の相続人へ直接名義を移す登記ができます。 一次相続の名義人から、そのまま最後の方へ移す形です。登記の件数が減り、費用も抑えられます。
中間が単独になる形は、もともと相続人が一人だった場合のほか、遺産分割や相続放棄によって一人になった場合も含まれます。該当しそうな場合は、協議の内容を決める前にご相談ください。 分け方次第で登記の組み立てが変わります。
一覧
| 相続人 | 必要な戸籍の中心 | 目安の通数 | 広域交付 |
|---|---|---|---|
| 子 | 被相続人の出生〜死亡 | 3〜5通 | 使える |
| 親 | 上記+先に亡くなった子の出生〜死亡 | 5〜8通 | 使える |
| 兄弟姉妹 | 上記+父母それぞれの出生〜死亡+祖父母の死亡 | 10〜15通 | 部分的にしか使えない |
| 代襲相続 | 上記+被代襲者の出生〜死亡 | +3〜8通 | 立場による |
| 数次相続 | 上記+亡くなった相続人の出生〜死亡 | 相続の回数だけ増える | 立場による |
この通数は、当事務所でお引き受けしてきた中での目安です。 転籍が多い方の場合は、これを大きく超えることがあります。
集めた後は「法定相続情報一覧図」を作ると楽になります
ご自分で手続きされる方に、強くおすすめしたい制度です。
集めた戸籍一式と、相続関係を一枚の図にまとめたものを法務局へ提出すると、認証された「法定相続情報一覧図の写し」を交付してもらえます。
- 交付手数料は無料です
- 必要な通数を、何枚でももらえます
- 法務局、金融機関、証券会社、年金の手続きなど、戸籍の束の代わりに使えます
戸籍一式を持って銀行を何行も回ると、そのたびに提出と返却を待つことになります。一覧図があれば、複数の手続きを同時に進められます。
一度戸籍を集めきってしまえば作れますので、集め終わったタイミングで作っておくと、その後がはるかに楽になります。
行き詰まったら
ご自分で進めていて、次のような場面になったらご相談ください。
- ご兄弟が相続人で、どこまで集めればよいか分からない
- 戸籍から知らない相続人が現れた
- 古い戸籍が読めない
- 相続が重なっていて、誰が相続人なのか整理できない
- 集めたものの、これで揃っているのか確信が持てない
途中まで集めた戸籍は無駄になりません。続きからお引き受けできます。 不足分だけを収集し、法定相続情報一覧図の作成まで含めてお手伝いできます。
相続手続きで集める戸籍の種類と取り方もあわせてご覧ください。
相続登記について詳しく/費用は料金のご案内をご覧ください。
根拠・参考
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月28日)。