戸籍はなぜ何度も作り替えられたのか|明治から令和までの改製と様式の変化
相続手続きで「改製原戸籍(かいせいげんこせき)も取ってください」と言われて、戸惑われた方は多いと思います。実務では「かいせいはらこせき」とも読みますが、同じものです。
聞き慣れない名前ですし、なぜ古い戸籍まで必要なのかも分かりません。古い戸籍まで求められるのは、戸籍という制度が何度も作り替えられてきたことに起因します。
ここでは、いつ、何のために、どのように様式が変わってきたのかを整理します。成り立ちが分かると、どの戸籍を取ればよいのかの見当がつくようになります。
「改製」とは何か
法律や様式が変わったときに、戸籍を新しい形式で作り直すことを改製といいます。そして、作り直す前の古い戸籍が改製原戸籍です。
問題は、作り直すときにすべてが書き写されるわけではないという点です。
これは運用ではなく、省令にそう書かれています。 戸籍を新しく作るときに引き継ぐ事項は、次のとおり限定列挙されています。
戸籍法施行規則 第39条第1項(抜粋)
新戸籍を編製され、又は他の戸籍に入る者については、次の各号に掲げる事項で従前の戸籍に記載したものは、新戸籍又は他の戸籍にこれを記載しなければならない。
一 出生に関する事項
二 嫡出でない子について、認知に関する事項
三 養子について、現に養親子関係の継続するその養子縁組に関する事項
四 夫婦について、現に婚姻関係の継続するその婚姻に関する事項及び配偶者の国籍に関する事項
五 現に未成年者である者についての親権又は未成年者の後見に関する事項
(六号以下略)
読みどころは 「現に〜継続する」 です。すでに終わっている関係は、引き継がれません。 離婚した婚姻も、離縁した養子縁組も、条文の文言から外れます。
転籍のときも同じで、戸籍の筆頭者以外で除籍された人に関する事項は書き写さなくてよいことになっています(同規則37条ただし書3号)。亡くなったお子さまや、婚姻して抜けたお子さまが、これに当たります。
まとめると、新しい戸籍から次のようなことが消えます。
- 改製前に亡くなったお子さま
- 婚姻して他の戸籍へ移った人
- 離婚した前の配偶者
- 離縁した養子
- 場合によっては認知の記録
どれも、相続人が誰かを左右する事実です。
現在の戸籍だけを見て「相続人は配偶者と子2人」と判断したら、実は改製前に離婚歴があり、前婚のお子さまがいた——こうしたことが起こりえます。相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は無効です。
だから、改製をまたいで遡る必要があります。
明治5年 ── 壬申戸籍
日本で最初の全国統一の戸籍です。編製された年の干支から壬申戸籍(じんしんこせき)と呼ばれます。
近代国家として国民を把握するために作られたもので、当時は身分(士族・平民など)が記載されていました。
この戸籍は、現在は取得できません。 記載内容に差別につながる情報が含まれていたため、法務省の指示により閲覧も交付も停止され、封印されたと言われています。
したがって、相続手続きで使うことはありません。 遡れるのはここまでではなく、次の明治19年式までです。
明治19年式戸籍
壬申戸籍を改めて編製されたものです。壬申戸籍が交付されないため、実務でさかのぼれるのは、この明治19年式までということになります。
- 戸主を中心とした「家」単位で編製されています
- 族称(士族・平民)の記載が残っています
- 縦書き・毛筆の手書きです
明治時代生まれの方の相続では、この戸籍まで遡ることがあります。
ただし、取得できるとは限りません。 除籍簿には保存期間があり、期間が過ぎて廃棄されたものは残っていません。
戸籍法施行規則 第5条第4項
除籍簿の保存期間は、当該年度の翌年から百五十年とする。
いまは150年です。以前はこれより短く80年とされていたと言われており、その期間で廃棄されてしまったものは戻りません。
取得できない場合は、市区町村に「廃棄により交付できない」旨の証明を出してもらい、それをもって代えることになります。
明治31年式戸籍
明治31年に旧民法(親族編・相続編)が施行されたことに伴う改製です。
民法によって「家」制度と戸主の地位が法的に確立されたため、戸籍もそれに合わせて整えられました。
この様式で目を引くのは、「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」という欄があることです。
誰が、いつ、どういう理由で戸主になったのか。前の戸主の死亡によるのか、それとも隠居によるのか。これを記録するための欄です。
当時の相続は家督相続が中心でした。 戸主の地位と家の財産を一人が引き継ぐ制度で、しかも死亡だけでなく隠居によっても生前に相続が起きました。この欄は、そうした家督相続の記録そのものです。
大正4年式戸籍
大正3年の戸籍法改正を受けた改製です。
主な変化は2つあります。
① 「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」欄が廃止された 明治31年式にあった独立の欄がなくなり、同じ内容は戸主の身分事項欄に記載されるようになりました。この欄の有無が、明治31年式と大正4年式を見分ける手がかりになると言われています。
② 身分登記簿が廃止され、戸籍に一本化された それまでは戸籍とは別に「身分登記簿」という帳簿があり、出生や婚姻などはまずそちらに記録して、戸籍へ転記する仕組みだったとされます。この二重管理をやめ、戸籍に直接記載する方式に改められました。
事務を簡素化するための改正であり、家制度そのものは変わっていません。
昭和23年式戸籍 ── いまの形の出発点
もっとも大きな転換です。
日本国憲法の施行と、それに伴う民法改正によって、家制度が廃止されました。 戸籍法も全部改正され、昭和23年1月1日から新しい様式になります。
何が変わったか
- 「家」単位 → 「夫婦と、その未婚の子」単位へ
- 戸主が廃止され、筆頭者になりました。筆頭者は戸籍を探すための索引にすぎず、何の権限もありません
- 三代が同じ戸籍に入らない原則になりました。子が婚姻すると、その夫婦で新しい戸籍が作られます
家制度の廃止という考え方が、そのまま戸籍の形に表れています。「家」ではなく「夫婦」を単位にすることで、戸籍から家の観念を取り除いたわけです。
実際の改製は、一斉ではありませんでした
ここが実務で紛らわしいところです。
昭和23年に法律が変わっても、すでにあった戸籍がその日に作り替えられたわけではありません。 旧様式の戸籍は、しばらくそのまま使われ続けました。
その後、法務省令によって、旧様式の戸籍を新様式に改める作業が行われます。昭和32年の省令によるものと言われており、実際の改製時期は市区町村ごとに異なって、昭和30年代から40年代にかけて順次進められました。
このときに作り替えられた元の戸籍が、いわゆる昭和の改製原戸籍です。
家制度の時代の記載が新しい戸籍へ引き継がれないことも、省令に書かれています。
戸籍法施行規則 附則第86条
第三十七条及び第三十九条の規定は、昭和二十二年法律第二百二十四号による改正前の戸籍法によつて戸籍に記載した事項で改正後の戸籍法によればその記載を要しないものには、これを適用しない。
「昭和二十二年法律第二百二十四号」が、家制度を廃止した新しい戸籍法です。その前の戸籍法にもとづく記載のうち、新しい法律では書かなくてよくなったものは、引き継がないという定めです。
家督相続の記録や、家制度のもとで除籍された人の情報は、この改製原戸籍にしか残っていません。 古い相続を扱うときに欠かせない理由がここにあります。
平成6年式戸籍 ── コンピュータ化
平成6年の戸籍法改正により、戸籍を電子データで管理できるようになりました。
何が変わったか
- 縦書き・和紙の簿冊 → 横書き・データ
- 名称が変わりました。「戸籍謄本」→「全部事項証明書」、「戸籍抄本」→「個人事項証明書」
- 読みやすくなり、証明書の発行も速くなりました
この改製も、省令に根拠があります。
戸籍法施行規則 附則(平成6年法務省令第51号)第2条第1項・第2項
戸籍法第百十八条第一項の市町村長は、電子情報処理組織によって取り扱うべき事務に係る戸籍を戸籍法第百十九条第一項の戸籍に改製しなければならない。
2 前項の規定による戸籍の改製は、戸籍に記載されている事項を磁気ディスク(中略)をもって調製する戸籍に移記してするものとする。この場合においては、(中略)戸籍法施行規則第三十七条ただし書に掲げる事項を省略することができる。
「省略することができる」 と書かれています。先ほどの37条ただし書には、筆頭者以外で除籍された人に関する事項が挙がっていました。つまり、平成の改製でも、すでに除籍されていた方は新しい戸籍に移りません。
実施時期は市区町村ごとに異なります。 平成6年以降、順次進められました。「うちの本籍地はいつ電算化されたのか」は、その市区町村ごとに確認することになります。
そして、ここでも移記されない情報が生じます。
平成の改製の時点ですでに除籍されていた方——たとえば改製前に亡くなったお子さまや、婚姻して抜けた方——は、コンピュータ化された戸籍には載りません。
現在の戸籍を見て「子は2人」と思っていたら、平成の改製原戸籍にもう一人記載があった。 これは実際に起こります。
令和の動き ── これは「改製」ではありません
近年の変化にも触れておきます。
2024年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍を取得できる「広域交付」が始まりました。 全国の戸籍情報を連携させる仕組みが整ったことによるものです。
ただし、これは改製ではありません。 戸籍の様式を作り替えたわけではなく、取得の仕組みが変わっただけです。ですから、新たに改製原戸籍が生じることはありません。
なお広域交付には、請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られる、窓口へご自身で行く必要がある、コンピュータ化されていない戸籍は対象外といった制約があります。詳しくは戸籍の種類と取り方の記事をご覧ください。
皮肉なことに、ここでも改製が影を落とします。 電算化されていない古い改製原戸籍は広域交付の対象外なので、結局その分は本籍地へ請求することになります。
まとめ ── 改製の一覧
| 様式 | 時期 | きっかけ | 主な変化 |
|---|---|---|---|
| 壬申戸籍 | 明治5年 | 最初の全国統一戸籍 | 現在は取得できません |
| 明治19年式 | 明治19年 | 壬申戸籍の改製 | 「家」単位、族称の記載 |
| 明治31年式 | 明治31年 | 旧民法の施行 | 「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」欄 |
| 大正4年式 | 大正4年 | 戸籍法改正 | 同欄を廃止、身分登記簿を統合 |
| 昭和23年式 | 昭和23年〜 | 憲法・民法改正(家制度の廃止) | 「夫婦と未婚の子」単位、戸主→筆頭者 |
| 平成6年式 | 平成6年〜 | コンピュータ化 | 横書き、全部事項証明書へ |
見分け方の目安
- 横書きで印字されている … 平成6年式
- 縦書きで「筆頭者」と書かれている … 昭和23年式
- 縦書きで「戸主」と書かれ、「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」欄がある … 明治31年式
- 縦書きで「戸主」だが、その欄がない … 大正4年式
実務では、こう効いてきます
改製の歴史を知っておくと、次のような見当がつきます。
昭和以前に亡くなった方の相続では、家督相続が問題になります。 昭和23年より前の相続は、当時の法律にしたがって処理されます。誰が家督相続人だったのかは、明治31年式・大正4年式の戸籍を読まなければ分かりません。
平成の改製原戸籍は、多くの場合に要ります。 亡くなった方が平成の電算化より前から同じ本籍地にいたのなら、その戸籍は改製をまたいでいるからです。
「戸籍が5通も6通も必要」と言われる理由も、ここにあります。転籍が多いことに加えて、改製のたびに戸籍が切り替わるからです。
ご自分で進める場合のコツ
窓口や郵送での請求では、次のように伝えてください。
相続手続きのため、改製原戸籍や除籍も含めて、この方の出生から死亡までの戸籍をすべてください。
「改製原戸籍も含めて」と明示するのがポイントです。単に「戸籍をください」と言うと、現在のものだけが出てくることがあります。
古い戸籍は手書きの毛筆で、旧字体も使われています。読めない場合は、無理に自己判断せずご相談ください。一人でも相続人を読み落とすと、その後の手続きがすべてやり直しになります。
古い戸籍が読めないときは
戸籍を集めてはみたものの、これで揃っているのか分からない。古い戸籍が読めない。そうした段階でのご相談を承ります。
途中まで集めた戸籍は無駄になりません。続きからお引き受けできます。
戸籍の種類と取り方もあわせてご覧ください。
相続登記について詳しく/費用は料金のご案内をご覧ください。
根拠・参考
- 戸籍法施行規則(e-Gov法令検索)
- 戸籍法(e-Gov法令検索)
- 国立公文書館「明治4年(1871)4月 戸籍法が制定される」
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行・広域交付)」
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月28日)。