戸籍の手数料は全国どこでも同じなのに、住民票はなぜ市区町村で違うのか
相続手続きで役所を回っていると、こんなことに気づきます。
戸籍謄本は、どこの市区町村で取っても450円。 除籍謄本と改製原戸籍は750円。名古屋市でも、津島市でも、まったく同じです。
ところが、住民票の写しの手数料は、市区町村によって違います。 隣の市に行っただけで金額が変わることがあります。
同じ役所の、同じ窓口で出てくる書類なのに、なぜ片方だけ全国共通なのでしょうか。
答えは、「その書類が誰のための記録なのか」という違いにあります。
戸籍は、国の事務です
戸籍は、日本国民の身分関係を公証する制度です。誰と誰が親子なのか、誰と誰が夫婦なのか。それを国として証明します。
この事務は、市区町村の窓口で行われていますが、性質としては国の事務です。市区町村は、国が本来果たすべき役割にかかる事務を、法律に基づいて処理している——法定受託事務と呼ばれる位置づけです。
なぜ国の事務でなければならないのか。戸籍が示す事実は、日本のどこで取っても同じ意味を持たなければならないからです。
名古屋市で証明された親子関係が、津島市では別の意味になる。そんなことがあっては、相続も、婚姻も、国籍も成り立ちません。身分関係は、国全体で一つの体系でなければならないのです。
だから、様式も、記載事項も、そして手数料も、国が定めます。
根拠になっている仕組み
地方自治法は、手数料は各地方公共団体が条例で定めるのが原則としています。ただし例外があります。
地方自治法 第228条第1項
分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。
この標準事務を挙げているのが「地方公共団体の手数料の標準に関する政令」です。表になっていて、その8番目に「戸籍法……の規定に基づく戸籍に関する事務」が置かれ、金額が示されています。
- 戸籍の謄本・抄本の交付 … 一通につき四百五十円
- 除かれた戸籍の謄本・抄本の交付 … 一通につき七百五十円
厳密にいえば「標準」であって、絶対的な強制ではありません。 ただ、統一する必要があるからこそ標準が置かれているわけで、実際にはすべての市区町村がこの金額を採用しています。結果として、全国一律になっています。
ここで押さえておきたいのは、標準事務とされているのが「戸籍法にもとづく戸籍に関する事務」だという点です。後で効いてきます。
住民票は、自治体の事務です
一方の住民基本台帳は、その市区町村が「誰が自分のところの住民か」を把握するための記録です。
これは、その自治体自身の行政の土台になります。
- 選挙人名簿をつくる
- 住民税を課す
- 国民健康保険・介護保険を運営する
- お子さまの就学の手続きをする
- 各種の給付を届ける
どれも、住民が誰かを把握していなければ始まりません。つまり住民基本台帳は、その自治体が自分の仕事をするために持っている記録という性格が強いのです。
こうした事務は自治事務と位置づけられ、手数料は各市区町村が条例で自由に定められます。 標準を定める政令の対象にも入っていません。
だから、金額が分かれます。
では、戸籍の附票はどちらなのか
ここで迷うのが戸籍の附票です。
附票には、その戸籍にいるあいだの住所の履歴が記録されています。相続登記では、登記簿上の住所と最後の住所をつなぐために使う書類です。本籍地の市区町村にあり、戸籍と一緒につづられています。
名前に「戸籍」と付いていて、置き場所も戸籍と同じ。では手数料も全国一律かというと、そうではありません。市区町村によって違います。
附票が、戸籍法ではなく住民基本台帳法の制度だからです。
住民基本台帳法 第16条第1項(戸籍の附票の作成)
市町村長は、その市町村の区域内に本籍を有する者につき、その戸籍を単位として、戸籍の附票を作成しなければならない。
「その戸籍を単位として」 作られます。だから戸籍と一緒に置かれ、名前にも「戸籍」が付いています。しかし定めているのは住民基本台帳法であり、写しの交付も同じ法律の20条にもとづきます。
そして、先ほどの政令が標準事務としていたのは「戸籍法……の規定に基づく戸籍に関する事務」でした。附票の交付は、この枠に入りません。実際、この政令の条文には「戸籍の附票」も「住民基本台帳」も一度も出てきません。
ですから、附票の手数料は各市区町村が条例で決めます。 住民票と同じ扱いです。
置き場所ではなく、どの法律にもとづく書類なのか。 そこで決まっています。
同じ理由で、附票は広域交付でも取れません
2024年に始まった戸籍の広域交付は、戸籍法120条の2にもとづく仕組みで、対象は戸籍の証明書に限られます。附票が住民基本台帳の制度である以上、こちらにも入りません。
本籍地が遠方の場合、戸籍だけはお近くの窓口で取れても、附票はその市区町村へ請求することになります。相続登記で住所をつなぐために附票が要るときは、ここで一手間かかります。
詳しくは相続手続きで集める戸籍の種類と取り方をご覧ください。
二つの記録が、そもそも別物である
整理すると、こうなります。
| 戸籍 | 戸籍の附票 | 住民票 | |
|---|---|---|---|
| 根拠になる法律 | 戸籍法 | 住民基本台帳法 | 住民基本台帳法 |
| 何が分かるか | 誰の子で、誰と婚姻しているか(身分関係) | 住所の履歴 | いまどこに住んでいるか(居住関係) |
| 単位 | 夫婦と未婚の子 | 戸籍 | 世帯 |
| どこにあるか | 本籍地 | 本籍地 | 住所地 |
| 手数料 | 政令の標準にもとづき全国共通 | 各市区町村が条例で定める | 各市区町村が条例で定める |
| 広域交付 | 使える | 使えない | 対象外 |
戸籍は「あなたが誰であるか」の記録、住民票は「あなたがどこにいるか」の記録です。
前者は日本全体で一つでなければならず、後者は各自治体がそれぞれ管理すればよい。この違いが、そのまま手数料の決め方に表れています。
だから、住民票には自治体の判断が出る
手数料を自分で決められるということは、そこに政策の余地があるということです。
たとえば、コンビニ交付を窓口より安く設定している自治体があります。窓口の混雑を減らし、職員の手を空けたい。そのためにコンビニでの取得を選んでほしい。手数料が誘導の手段になっているわけです。
無料化や減額を行う自治体もあります。財政状況や、住民サービスをどう考えるかによって、判断が分かれます。
同じ書類の値段が場所によって違うのは、行政の怠慢ではありません。 自治体が自分で決めてよい領域だから、決め方に差が出ているのです。
相続手続きの費用を見積もるときは
以上を踏まえると、実務上こうなります。
戸籍関係は、金額を先に計算できます。
- 戸籍謄本 … 450円
- 除籍謄本・改製原戸籍 … 750円
必要な通数さえ見通せれば、費用はほぼ確定します。郵送請求で定額小為替を用意するときも、この金額で計算できます。
住民票と戸籍の附票は、市区町村ごとに確認が必要です。
確定的なことは、その市区町村のウェブサイトでご確認ください。 ここだけは「全国いくら」と言えません。
とくに戸籍の附票は、戸籍と一緒に請求することが多いぶん、見落としやすいところです。 戸籍の分だけ定額小為替を用意して、附票の分が足りなかった、ということが起こります。
なお、印鑑登録証明書も自治事務ですので、同じく市区町村によって異なります。遺産分割協議で相続人全員分が必要になりますから、こちらも人数分の確認をしておくとよいでしょう。
制度の成り立ちが、そのまま形に残っている
戸籍と住民票は、窓口が同じで、並べて取ることも多い書類です。しかし成り立ちはまったく違います。
戸籍は、明治以来、国が国民の身分関係を把握するために整えてきた制度です。家制度の廃止という大きな転換を経ながらも、「国が一元的に管理する」という性格は変わっていません。
住民基本台帳は、住民の居住関係を市区町村が把握するために整えられた制度です。もともと自治体の行政のためのものであり、いまもその性格を保っています。
手数料が一律かどうかという、一見どうでもよさそうな違いに、制度の来歴がそのまま残っているわけです。相続の手続きで役所を回っていて、ふと疑問に思われたときの手がかりになれば幸いです。
実費の見通しについて
相続手続きで必要な書類と、その実費の見通しについては、ご相談の場で整理してお伝えします。
戸籍の集め方については、相続手続きで集める戸籍の種類と取り方もあわせてご覧ください。
相続登記について詳しく/司法書士報酬は料金のご案内をご覧ください。
根拠・参考
条文は e-Gov 法令検索で現行のものを確認しています(最終確認 2026年7月28日)。